地球を半周して戻ってきたスーツケースの話

先日、著名な日本人アーティストがスペインの空港でロストバゲージに遭った、というSNS投稿が話題に。海外公演を多くされている方だったので、ロストバゲージは何度も経験されているかと思いきや、意外に遭遇していなかったよう。元旅行会社勤務の編集部員によると、ロストバゲージ、通称“ロスバゲ”は、旅行トラブルのなかでも頻繁にあるトラブルの1つ。万が一、遭遇してしまった場合にはどうしたらよいかを伝授します。
【この人に聞きました】Shihoko Akahira
旅行会社勤務時代に国内外の旅行ツアーを企画し、添乗員として29か国をアテンド。ワーキングホリデーでのカナダの現地ガイド経験や、プライベートでのアメリカ横断旅など、海外経験が豊富。とくにフランス全域およびパリの街歩きに精通しており、トラベルズー編集部の“フランスのご意見番”として厚い信頼を得ています。
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Q、ロストバゲージってそもそもどんな状況?
A、ロストバゲージ、とは航空機に預けた受託手荷物(スーツケースやベビーカー、車椅子など)を到着地で受け取ることができない状況です。理由としては、航空機への荷物の積み忘れだったり、航空会社や空港職員の手違いによる預け先の間違いだったり、航空機の乗り継ぎ時間が短かったことでの積み漏れなどです。
Q、ロストバゲージが発生しやすいのはどんなとき?
A、ベテランの添乗員さんから、下記のような状況のときはロストバゲージとなる可能性があるため、気をつけたほうが良い、とアドバイスをもらい、事前にツアーのお客様にも案内していました。
①航空機の乗り継ぎ時間が短い(とくに乗り継ぎ時間が2時間を切る場合には要注意)
②航空機の到着が深夜(22時以降の到着となると、スーツケースを機内から降ろすスタッフが不足して、空港がもぬけの殻で対応されない…ということも)
③空港職員のストライキ中(ヨーロッパなどで起きやすく、事前告知でストライキをするため、予測は可能)
④フライト時間の大幅な変更が発生(自然災害、航空機の機材トラブルなどで出発・到着時間が大きく変わるとき)
Q、では、ロストバゲージを避けるには?
A、空港職員のミスの場合などは諦めるしかないのですが、最低限自分でできる防衛策もいくつかあります。
①乗り継ぎがあるフライトを予約する際には、乗り継ぎ時間に余裕がある(2時間以上)フライトを予約する
②預けるスーツケースを確認して、過去に旅行した際に貼られたバーコードシールを全て剝がす
③空港でチェックインし、スーツケースを預けた際に渡されるシール(バゲージクレームタグ)に記載される行き先が、自分の目的地と合っているかその場で確認する
とくに、②については、過去の旅行の思い出として…と貼ったままにする人も多く見かけますが、過去のバーコードが機械によって読み取られてしまい、受託手荷物が別の行き先に行ってしまうこともあります。また、空港でもらったバゲージクレームタグは到着地まで必ず保管することで、ロスバゲになった際にもスムーズに対応してもらえます。
Q、ロストバゲージを想定した対策は何かある?
A、添乗員としてお客様に案内していたのは、必ず機内持ち込みの手荷物に最低1日分の着替え、日用品(歯ブラシセット、常用する薬、眼鏡、充電器など)を入れることです。スーツケースが届かなくても1日程度旅行できる手荷物があれば、ロスバゲとなった場合にも精神的に余裕が生まれます。
Q、それでもロストバゲージに巻き込まれたら…どうしたらいい?
A、万が一ロストバゲージに遭遇してしまった場合には、まずは空港のバゲージクレームでの手続きが必要です。航空機に預けたスーツケースが出てくるターンテーブルがある場所をバゲージクレームと呼びます。空港によって異なりますが、航空会社毎にカウンターを設置していたり、総合カウンターがあったりと異なりますが、バゲージクレームエリアもしくは空港内に必ずあります。
①カウンターへ行き、荷物を預けた際にもらったバゲージクレームタグを示し、見つからないことを伝える
②バゲージクレームタグによって、即座に荷物の現在地の確認ができることも(すぐに確認ができない場合には、後日連絡となることも)
③P.I.R.(手荷物事故報告書)を空港職員に作成してもらい、受領し終了
P.I.R.がない場合、荷物を紛失したことを証明できません。作成の際には、スーツケースの大きさや色、特徴などを聞かれ、到着後の滞在先などを聞かれます。
カウンターでの手続きなしに空港の外に出てしまうと、スーツケースを追跡できなくなってしまうこともあるため。必ず作成してもらう必要があります。
今回のアーティストのように、空港に深夜到着し、カウンターに誰もいない…という場合は、空港の到着ターミナルではなく、出発ターミナルへ行ってみると、航空会社のカウンターにまだ空港職員がいることも。翌日以降の手続きの場合、スーツケースの捜索開始にも時間がかかるため、できるだけその場で手続きをすることをおすすめします。
Q、ロストバゲージにあったら何か補償はあるの?
A、航空会社により異なりますが、1泊分程度の日用品セットをもらえたり、航空会社が一部費用を補償をしてくれたり、加入する海外旅行保険によっては、ロスバゲにより必要となり購入した商品(下着や歯ブラシなど最低限のもの)を全額補償する保険もあります。そのため、何か購入した際には全てレシートを保管しておく必要があります。
Q、実際、ロストバゲージに遭ったことはある?
A、2回あります! 1回目はカナダのプリンスエドワード島です。プリンスエドワード島を出発する際、「あれ?私と友人のスーツケースに似たものが滑走路のカーゴの中にまだある…」と見ながら飛び立ったところ、トロントに到着したら、やはりスーツケースがありませんでした! カウンターで調べてもらったところ、やはりまだプリンスエドワード島にあるとのことで、翌日の便でトロントに無事到着。空港からホテルまで宅配便で送ってもらえました。1泊分の日用品セットをもらえたのですが、歯ブラシやTシャツなどが入っており、Tシャツは大きすぎて着られるサイズではなく、お土産になりました。
2回目は、パリで遭遇しました。パリ周辺が稀に見る大雪となり、あらゆるフライトが大混乱で、空港職員がスーツケースを処理しきれない状況に。空港の片隅にスーツケースが大量に放置されるという始末でした。このときは空港カウンターも全く機能していなかったため、翌日に現地ガイドとともに空港へ再度行き、自分たちのスーツケースをスーツケースの山の中から探してホテルへ持ち帰りました。
いずれの場合も大きなトラブルとはならなかったので、旅の笑い話として思い出します。遭遇しないにこしたことはない、ロストバゲージ。備えがあれば安心して旅を続けることができますね。
Q、記憶に残るロストバゲージのエピソードはありますか?
A、海外添乗へ行く際、いつも丁寧に教えてくれた添乗員歴20年以上のベテラン添乗員・Oさん体験談が強烈でした。Oさんは、過去何度もロスバゲに遭い、手荷物だけで1週間以上添乗したこともあったそう。驚いたのは、スペイン・グラナダに着くはずのスーツケースが、カリブ海のリゾート・グレナダに行ってしまったという逸話。恐らく空港職員さんの手続きミスだったのでは…と話していましたが、日本からカリブ海へ、そこからカナダを経由してグラナダに到着した際には、旅行の最終日だったそう。地球半周したスーツケースとともに、無事に日本へ帰れたそうです。
【インタビュアーからの編集後記】今回の話を聞き終えて思わず出たコメントは「旅行のプロも遭遇してるんだし、ロスバゲは“遭って当たり前”ぐらいの感覚の方がいいのかもしれませんね…」。Shihokoさんからは最後に「ほんと、“遭って当たり前”ぐらいの感覚で旅行していると気持ちが穏やかでいられますよ(笑)」とのアドバイスを授かりました。旅行に行きたい、でも不安、というときは、やはりまずは情報収集ですね。この記事がトラベルズーメンバーの“旅のお守り”になれば幸いです。
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